日本の外交課題は、もは交渉では何一つ解決しない時代に突入している。

日本の西側に位置する隣国と我が国は、絶対に譲れない外交課題を抱えている。
ロシアとは北方領土問題、北朝鮮とは拉致問題、韓国とは竹島問題や解決済の問題の蒸し返し。中国とは尖閣問題や海洋資源の不当採掘問題。

どれもこれも、理不尽な問題ばかりだ。

安倍総理がロシア・プーチン大統領と何回も会談を重ねても「北方領土は戦争の結果、ロシアが獲得した領土であることを日本が認めなければ交渉は進まない」と居直ってしまうわけだから「これまでの努力は一体何だったのか」と茫然としてしまう。

そもそも北方領土がどういう経緯でロシアの実効支配下にあるのか、日本国民が、常にそのことを確認して、不法に占拠された国土なのだ、という認識を共有しないと、ロシアの言い方が「戦争に負けた結果、ロシアの領土になったんだ」という根本的な認識の誤りを助長してしまう。

国は学校教育でキチンとそのことを伝えるようになったが、社会全体に対して、その役割を果たすべき国会野党と、それを後押ししたいテレビ、新聞などのマスコミには、いまだに戦争による敗北により形成された秩序が全てであるという前提で物事を考えているところが多く「不法に占拠された国土なのだ」という認識に立たないで論陣を張り、国民をミスリードしている。

安倍総理の外交努力が日本国内の世論の後押しを受けるどころか、ロシア国内での反対運動を招いてしまっている。情けないほどの我が国の世論である。

ここ3年ほどの安倍総理の対ロシア外交で、北方領土問題に何らかの前進を期待してしまっており、これが「ゼロ回答」に終わろうものなら、待ってましたとばかりに「安倍外交の失敗」と鬼の首を取ったように騒ぎたてるのが、野党と偏向マスコミである。

しかし、領土問題に進展がなくとも、ロシア外交には先を見据えた戦略的テーマがある。それはロシアが中国に取り込まれる状況を作らせないというテーマである。このテーマは、この先10~20年において、我が国にとって死活的な重要性を持っている。

覇権国家への野望を隠そうともせず、軍事力の拡大を進める中国は、背後にいるロシアの脅威がなければ、全ての軍事力を東と南に振り向けることができる。

これこそが、我が国にとって最もリスクの大きい情勢である。したがって日本は何がなんでもロシアを繋ぎとめ中国への接近が不必要な状況を作る必要がある。日ロ平和条約締結の意味は、そういう戦略的・死活的意味を持っている。

領土問題で「ゼロ回答だ」と言って失政呼ばわりすることは許されない。この先もしばらくは、こうした長期的な戦略で外交を続けられる総理は期待出来ない。

これからの対ロ交渉の眼目は、いかに「領土問題は未解決で次の世代に持ち越すが、平和条約は不可欠である」というロジックを日ロとも納得できる形で構築できるかにある。


次に北朝鮮による拉致問題金正恩の体制維持は日に日に確たるものになってきている。金正恩は、中国の属国として生きる道を選んだので、習近平の逆鱗に触れるようなポカさえしなければ、生き長らえることはできる。ミサイルも当分は撃つ必然性がなくなった。

となると、アメリカとの付き合いは、アメリカ大統領の任期をにらみながら、うまく政治ショーを見せていればいいというスタンスになる。

金正恩の若さとこだわりのなさが中国に通じたのだ。トランプとも会談した金正恩は、いまやなんでもできる政治家に成長した。あとは国内で油断による暗殺のリスクを警戒すればいいだけになった。

そういう北朝鮮拉致問題を抱えている。日本が出せる最大のカードは経済支援だが、北朝鮮が求めてくる必然性は弱まったといえる。中国のような改革解放は体制を危うくするという思いも強いから、やみくもな経済支援は希望しない。

となると、拉致問題解決の突破口が開けない。30年かけて国家的課題にまで重要性を高めたにもかかわらず、交渉による解決の糸口が見えない。皮肉なことに重要性を高めただけに解決されない状況が続けば、政府に対する風当たりは強くなる。

安倍総理が自ら「最重要課題」と位置づけている拉致問題が、解決に向かって進まなければ、失政呼ばわりの格好の餌食になりかねない。

これこそが「外交交渉では何一つ解決しない」最たる問題である。今日、当事国同士で解決しない場合にとれる手段は、国際法に基づく提訴か、国際世論を喚起するかぐらいしか手がない。

国際世論を喚起するということほど、今日、空疎になったものはない。国連の機能はもはや限定的でしかないし、西欧社会が標榜してきた、自由や民主主義、法の下での平等、基本的人権と言った価値観さえも、個別の国の利害や国益のもとでは、説得力の乏しいものになりつつある。

とりわけ、戦後70年間、国連安全保障理事会が、当初40年はソ連という共産主義国のため、その後の30年は中国という共産主義国と、自由な民主国家になりきれないロシアという国のため、米英仏と常に対立構造のままだったことから、国連創設の理念など絵に描いた餅になってきた。

日本やドイツが大国として世界をリードできる状況でも、常任理事国入りは頑強に阻まれている。こうした国連に異を唱えようものなら「戦後秩序を壊そうとする修正主義国である」というレッテルを貼ろうとする。

この国連の枠組に甘んじる限り、日本は明治維新前に幕府が結んだ不平等条約に何十年も苦しんだ、あの時代と同じ状況に置かれていることになる。そして、それが、すでに70年、この先も何年続くかわからない。

そんな中、政府も建前では国連主義を語らないわけにはいかず、野党やそれに追随するマスコミは、観念的平和主義をふりかざし「何事も穏便に」である。穏便に対応して拉致問題が解決するのであれば、とっくの昔に解決している。

拉致問題とは、日本が、たとえ、あと何年かかろうと北朝鮮に対して、全てに優先して主張する問題てある。いまは、常にそれを確認し続けるしか方法がない。ほかに方法がない。


次は韓国の問題。
それにしても韓国という国は、どこへ行くのだろうか? 現在の文在寅政権が、これほどまでに教条主義的な政治をするとは。

【ここからは2019.8.12に加筆しました】

いまや、文在寅政権は、日本を敵とはっきり規定することで自分の政治基盤が盤石になるのでは、という手ごたえを持ち始めている。経済がどこまで悪化しようと、それは自分のせいではなく、すべて日本のせいなのだという論法が、かの国ではまかり通るらしい。

竹島問題はもとより、慰安婦合意の破棄、徴用工判決、水産物禁輸、レーダー照射問題、はては海自艦の旭日旗に対する難癖等々、どれをとっても「どうせ日本は何も反発してこない国だから」と、完全になめてかかっての所業だ。

確かに「何も反発しない」面が日本にはあった。それは外務省、外交官という、本来、国益を代表すべき輩が、長年、不作為を重ねてきたからだ。

水産物禁輸のWTO敗訴ほど、日本の外交官がサボタージュを重ねてきた姿を象徴している問題はない。

ただ、7月から8月にかけて日本が、韓国に対して輸出管理を厳格化する措置をとったことで、文在寅政権は「二度と日本には負けない。我々は十分日本に勝てる」と、宣戦布告にも似た姿勢を示した。

少なくとも、韓国は国を挙げてヒステリックなほどに「反日行動」に出ることだろう。最大のカードは東京五輪ボイコット運動である。

それを受けて、またぞろ日本の中の「ことなかれ主義者=親韓勢力」が、日本政府に対して「なんとか事を収めろ」の大合唱を始める。そのことのほうを監視しなければならない。

韓国問題というのは、ある面、日本の中の国益軽視勢力もしくは韓国の代弁者たち(野党、メディア、儲けのタネを失いたくない経済界等々)との闘いでもある。これからも長く長く続くに違いない。

 

最後に中国の問題

いま、中国は、米国との経済戦争をいかに乗り切るかにすべてを賭けている。そのために日本を最大限利用するつもりでいる。

したがって、当面、中国から繰り出される対日宥和姿勢は、それによって少しでも対米経済戦争の影響を和らげることを狙いとしている。

過去に日本は、天安門事件で世界から制裁を受けていた1992年、江沢民外交の罠にかかり、天皇訪中という形で、西側経済制裁の突破口を作るという歴史の失敗を犯している。

中国は、日本をそのように利用して経済低迷の危機を抜け出し、その後は飛ぶ鳥落とす勢いで大国への道を疾走する一方で、徹底した反日教育を施していたのだ。

当時、日本は、宇野宗佑海部俊樹という、本来なら総理になるべきではない人が総理を務めていた、民主党政権時代にも匹敵する不幸な時代で、この対中制裁緩和は、彼らのご意見番であった、中曽根康弘鈴木善幸竹下登といった面々が仕組んだことを、決して忘れてはならないし、そうやっていても、中国には、いいように反日教育を徹底されてきた、とんだ「ノー天気な国の面々」であることを忘れてはならない。

折しも、習近平国賓としての訪日が予定されている。安倍総理の対応に抜かりはないと思うが、中国は全神経を集中して、対米経済戦争の緩和に向けて風穴をあけようとしている。

いま、懸念されているのは日中共同宣言における中国の仕掛ける罠「自由貿易体制の尊重」と「世界運命共同体構想の推進」である。西側諸国の基本的価値観である、自由と人権の尊重を標ぼうする国の話ならわかるが、中国がそれを持ち出すのはブラックジョーク以外の何物でもない。

しかし、理念的には反対できないと言って同調したのでは、1992年の二の舞である。自由貿易とは、あくまで企業活動における行為であり、国家資本主義のもとでの話とは、そもそも次元が違う。

「世界運命共同体構想」というのは「一帯一路構想」の変名版でしかない。中国には「韜光養晦」という考え方、中国が密かに国力を充実させるため目立たずに行動せよ、という考え方があると言われているが、昨今の対日宥和姿勢も、その変形と見てもいいのかも知れない。尖閣諸島に対する行動や海洋資源の不当採掘の動き、さらには台湾・香港などに対する「核心的利益」論では、決して目立たずになどと言える様子はなく、軍事力と経済力の膨張を背景に、あからさまに圧力をかけている。

南沙諸島の軍事基地は、紛れもない要塞となっており、我が国のシーレーンを危うくする度合いが増している。

とにかく江沢民時代に施された反日思想が、どこで、どう効いてくるか不気味であり、中国に対して隙を見せることがあれば、それは軍門に下ることを覚悟しなければならない。

私は、もはや日本が、近く台湾と同盟関係を構築して、日米台に、豪・インドを加えたインド太平洋構想を、より強固なものにしていかなければならないと考えている。台湾はこれからも中国から、さまざまな圧力・嫌がらせを受け続けなければならないが、少なくとも日本は、台湾のそうした窮状を見てみぬふりをする態度をあらためる時期にきている。

これなども、通常の外交では解決しない問題であり、国論を背景にした政治決断によるしかない。

それにつけても「中国は日本にとって死活的に重要な国だから」といって、台湾・香港などの問題を見てみぬふりをする姿勢は、西側世界の一員たる、まともな国のやることではない。

日本という国は、何事も穏便に、あまり声高に主張することを良しとしない文化を持つ国が故に、韓国による水産物禁輸問題のWTO敗訴のような、国際社会でのガラパゴス化に陥っている面がある。

チベット・ウィグル地区の人権問題に対して国際社会が堂々たる批判を行なっている中、日本は目をつむっている。これでは、国際社会、特に西側世界の一員としての誇りある尊敬を集める国になるなど、遠い夢である。

安倍総理が他の面で、いろいろと日本の国際的プレゼンスを高めている功績がある一方で、隣国との外交課題は、国際社会での日本の地位をも脅かすリスクをはらんでいる。

日本全体として、この状況を正しく認識して、国論をまとめていく努力を、心ある人たちの力で進めていかなければならない。