大瀧詠一というアーティストのことについて

昨夜、2021年8月28日夜、NHK-BSで「我が心の大瀧詠一」という90分番組の再放送がありました。

今年4月にも放送されたようで、観た記憶があるようなないような、です。観たとしても何かをしながらだったかも知れません。

今回は、他に何もせずに観ましたので、かなり印象深い番組でした。

私なりに感じたことを書き留めておきたいと思います。

 

一つは大瀧さんの音楽性に、大瀧さんの出身地岩手県の山間部とほぼ同じ地域に拠点をおいて音楽活動をした「姫神」が奏でるメロディというかサウンドとの類似性を感じたことです。

姫神」の星さんという人は宮城県北部の出身だそうですが、音楽の拠点は岩手県です。

 

若い時代に「はっぴいえんど」というグループ名で大瀧さんとバンドを組んだ細野正臣さんは「メンバーは宮沢賢治に影響を受けており、その世界観がバンドの音楽性にも影響を与えていると述べている」と語ったことがあるそうです。

 

姫神宮沢賢治、大瀧さん、岩手の同じ地域が悠久の歴史を通じて醸し出す世界観が、私の中でシンクロします。自分のルーツがそちらの地域ではないのですが、なぜかサウンドはシンクロします。キーワードは「静寂」と、その静寂を破る「祭ばやし」すなわち地域のサウンドなのではないかと思うのです。

 

次に、おなじく「はっぴいえんど」のメンバーだった作詞家の松本隆さんとの信頼関係というか、詩と曲の一体性も特筆ものです。

番組では松本隆さんが、大瀧さんから初めてアルバムを制作する時に作詞を担当して欲しいと依頼されたエピソードを語っていました。

松本さんは、依頼された直後に大切な妹さんを亡くし、ショックのあまり、とても詩が書ける状態ではないと、断りを入れるのですが大瀧さんからは「自分は松本ありきでアルバム作りを考えているので、待つから」と言われたそうです。

そうして生まれた初アルバム「A LONG VACATION」の冒頭を飾る「君は天然色

時代が求めていた感性を見事にメロディそしてサウンドにしています。

筒美京平三木たかしといった作曲家にも同じ気持ちを抱くのですが、羨ましくなるほどの才能です。

 

三つ目は、この放送の演奏収録に集まったミュージシャンたちの多彩さです。ピアノ、ギター、ドラムはもとより、その分野のトップミュージシャンが一同に集うことの素晴らしさを見せてもらいました。

とかく、演奏にあたる人たちは、いろいろな音を奏でますから、なかなか個別の音として聞き手に届かないものです。

今回の演奏を聴いて、どの音も珠玉のサウンドピースであり不可欠のサウンドであることを実感しました。これは番組の作り方の成果なのかも知れません。

 

そのほかにも、いろいろあります。

大瀧詠一という人が福生に活動拠点をおいていたということ。福生といえば街自体にアメリカ的な空気が漂うところです。これはユーミン(松任谷由実)さんが持っているマインドと似た気持ちによるものなのでしょうか? と感じたこと。

 

また、大瀧さんが松田聖子さんのために作った「風立ちぬ」という曲を唄ったのが、なんと着物姿の島津亜矢さん、松田聖子さんにも似た透明感のある高い歌唱力に聞きほれたわけですが、画面には着物姿、そのギャップに思わず笑えました。

 

73歳という歳になっても、素晴らしい感動のサウンドに巡り合える喜びは何物にも代えがたい幸福です。

ちなみに大瀧さんも同じ1948年生まれだそうです。ご存命なら一つ違いの松本さんと似たような年の取り方で画面に登場したことでしょう。画面ではモノクロームポートレートが使われていましたが、同じ世代だからこそ共感する音楽性、世界観ということなのでしょう。

 

自分は、自分で生み出せるものが何もなくて、すべて受け身の側ばかり、ということを「どうして自分はこれほどまでに才能に恵まれていないのか」と長い間嘆くばかりでしたが、最近になって「自分は若い時代から何か一心不乱に打ち込むものを何も持たなかった」人生を歩んできたわけで、これでは「生涯にわたって何物でもない、ただの一人」にしかなり得ないと、やっと自覚できるようになりました。

 

そして、その代わりということかも知れませんが、まだ出会っていない感動のメロディ、サウンドに、これからも出会う楽しみがあると思うと、これはこれで幸せな生活と言えるかも知れないと思うようになっています。

今回のように「大瀧さん、ありがとうございます」と。