平和安全保障関連法案の成立に思う

今国会の最大の法案、「平和安全保障関連法案」が成立した。まぁ、野党・民主党が旧社会党化してしまい、政権を担うという前提の対応をまったくしなくなったのだから、ここ2日の国会のありさまは、自然のなりゆきとも言える。

絶対反対、絶対廃案と叫ぶ勢力の旗印となったのは、①戦争に巻き込まれる。②憲法違反。③国民の理解が深まっていないのだから、今国会での成立は見送るべき。
おおまかに、この3点だ。

「戦争に巻き込まれる」というキャンペーンは、左翼勢力と親左翼メディアの常套手段であり、国の安全保障に責任を持つ立場を理解できれば、ザル穴だらけの現在の法体系のほうが、よっぽど戦争に巻き込まれてしまうことなど、すぐわかる。ただ、彼らは
国の安全保障に責任を持つという意識はゼロなので、決してそうは思わない。

左翼勢力と親左翼メディアだけがキャンキャン言っているだけならいいのだが、これに責任野党であるはずの民主党、維新の党が与してしまうから始末が悪い。

彼らは心の中では「現在の法体系がザル穴だらけだ」ということは百も承知しているが、党を率いている連中が「野党として与党の法案に賛成するわけにはいかないのだ」という論理から出発しているので、民主党前原誠司氏、長島昭久氏、維新の党の片山虎之助氏など、ザル穴を埋めるにはどうするか、という観点に立って議論する人たちは出番を失ってしまう。

ザル穴だらけの現在の法体系をどう埋めていくかという点について、自らの党の意思を示さなかった民主党には、当分、政権を与えてはならない。

次に「憲法違反」という点、これは、与党の信じられないオウンゴールである。船田元・党憲法改正推進本部長が人選の責任者ということだろうが、このへんのチェック体制の甘さというか、いわば大臣に指名する前の身体検査的厳しさの欠如が招いた結果だろう。

この6月の事件以来、余計な批判材料を反対勢力に与えてしまった。このあと「違憲訴訟」に広がっていくだろうから、この罪は非常に重い。

党幹部は、国会中に処分などを下せば、かえって反対勢力に攻撃材料を与えるとの判断から見送っていただろうが、船田氏はこれで政治生命を失ったといえる。

3つ目の「国民の理解が深まっていないのだから、今国会での成立は見送るべき」という材料。これは終盤にきて野党が取った戦略だが、メディアがこれを後押しした。

しかし、これとて、絶対にできない相談だ。待ったなしで成立すべき時勢にあるのはもちろんだが、批判に屈する形で万が一にも今国会での成立を放棄したら、それは安倍政権の崩壊を意味する。

それをわかっているから、野党もメディアもここぞとばかり「国民の理解が深まっていないのだから・・・」と言いよってくる。

そうした政治力学を理解せず、一般国民の中には「国民の理解が深まっていないのだから拙速だと思うようになってきた」という人が増えだであろう。そう思った人には、ぜひ「それじゃぁ、安倍政権が倒れて、また混乱の何年かに突入してもいいのかどうか」じっくり考えて欲しい。

とにかく、小沢一郎氏らが、宮沢内閣打倒を図って以来、ほぼ20年間にわたり、政治的不安定と、デフレ経済の混迷に至らせた日本をやっと、第二次安倍内閣によって、脱却の途につかせている今日の状態を、また失ってもいいのかと。

「平和安全保障関連法案」も、実は20年もの長きにわたり、日本の政治が不安定で、なにも決められない状況が続いたことの産物なのだ。
その間、何が起きているか、アメリカは「世界の警察官役を辞めた」と言い、中国はこれ幸いとばかりに「どの島も中国のものだ」と膨張政策と軍備増強を進めている。

こんな簡単な変化すらわからずに、平和ボケのまま、「これからも、このままでいい」などとノー天気なことを言っている人たちよ、あなた方も民主主義のもとでは、一票を使って主権を行使できることは確かだが、あなた方の不勉強が、いかに国を危うくするか、少しは考えてみるがいい。

民主党の罪な人たちは「政府はそもそも、この法案が必要だという基本的な説明すらできていない」といって攻める。バカな話よ。どこの国の責任者が「中国を見据えた法案だ」という説明をするものか、北朝鮮ぐらいの国に対してなら、仮想敵国として名指しできるが、まかり間違っても一国の総理が中国を仮想敵国呼ばわりすることはあり得ないのだ。

かれらは、そこもわかっていて攻める。だから罪は重いといっているのだ。民主党には当分絶対政権を渡せないし、彼らも、それを承知で攻めているということだ。

民主党は、一番最初の議論から岡田代表が「自衛隊のリスクは増すと思うが・・・」と、戦争のリスクと自衛隊のリスクをセットにした論法で攻めてきた。

それについて、今朝の産経新聞に寄稿した、拓殖大客員教授潮匡人氏は「自衛隊のリスクが増える側面もあるということを、安倍首相はきちんと説明し「リスクを日本だけが負わなくてよいのか」と、自分の言葉で率直に語ったほうが理解は深まった」と述べている。

私も、この意見に賛成で「これまでの自衛隊は、『自分たちは何もできません』といって、一緒に国際貢献している各国軍や日本のNGOの人たちに危険が及んでも見殺しにしなければならない立場に置かれていた。これまでの自衛隊は、もし、そうなったら、自分たちが罰せられても危害を受けようとしている人たちを助ける。

それが誇りある自衛隊員というものだろう。その状況に法律的裏付けを与えてあげるほうが、よほど重要なことで、自衛隊員は、そのことを誇りにこそ思え、リスクが増すといって忌避する性格のものではない。

では、リスクにさらされた自衛隊員の家族はどう思うか、と問うが、国際貢献に覇権されている自衛隊員の家族にも寄り添っていくのは当然のことだが、そのために国際貢献活動における自衛隊のリスクを回避するとなれば、それは、各国軍や日本のNGOの人たちに危険が及んでも見殺しにしなければならない、これまでの立場と変わらないものとなり、多くの自衛隊員が望まないことではないか」

といった議論を、もっとして欲しかった面もある。

しかし、安倍総理は慎重に、安全運転の答弁を選んだ。自衛隊のリスクは増すんだということを、あまりにも正面からかざすと、それをどう攻撃の材料にされるか読めない、できるだけ、不穏なことを想起させない答弁に向かったと私は解釈している。

なにぶん、今回の度重なる野党の質問姿勢は、その昔、吉田茂が「バカヤロー」と叫んだり、佐藤栄作が「新聞は出ていってくれ、私はテレビに向かってだけ話す」といった、堪忍袋の緒がいつ切れてもおかしくない気持ちに、たびたびさせられるものだった。

したがって、安倍総理は、そうした先人たちの教訓に学んで、ひたすら隠忍自重を旨としたと思う。だから、よくぞ耐えましたね、とねぎらいたい。

産経新聞は、今朝の一面見出しの一つに「首相『ようやくここまで来た』」と打った。そのとおりだろう。あとは歴史が証明してくれる。そういう思いだろう。

これだけの大転換を、まぁ最後のひと騒ぎはあったにしても、正々堂々と両院での可決成立という形で成し遂げたのは、それを可能にした安倍内閣に対する国民の信任に裏付けられた議会勢力なしにはあり得ない。

来年の参院選挙まで、一時は落ち込むであろう支持率を、ぜひ、また経済実績によって取り戻し、安定多数の勝利で乗り切って欲しい。なにせ、その次の年の4月には消費税率10%引き上げという鬼門が待っている。

つくづく思うのは、いま安倍総理に代わって、それと同等もしくはそれ以上の仕事ができる総理など一人もいないのである。経済政策、安全保障政策、外交等々、どの分野においても戦後稀に見るレベルの高さで仕事をしている総理の代わりに誰がいる。

誰それと、名前をあげる人がいるとしたら、それは政治オンチだ。

私は、安倍総理レベルの人がもう二人は欲しいと思っている。人格、識見、胆力、そして洞察力、俯瞰力といった総合的なレベルである。

なかなか名前が出てこない。安倍総理のほうが「次はこの人に」と感じている人がいるのかも知れない。が、いないかも知れない。来年の参院選、さ来年の消費税引き上げをどう乗り切るかにもよるが、さ来年の夏以降は、安倍総理続投か、後継者として「なるほど」と思える人が出るのかどうか、といったところが関心事となろう。