終わりなき「訪ね歩き」の旅路④

1992年8月1日、私は会社員ではなくなり、自分で仕事を作って稼いでいく初日を迎えました。

幸い、知り合いが仕事を用意してくれて、まずは初日から企業訪問です。行先は千葉県芝山町、場所を調べると成田空港が近いところです。

当時、まだネット検索で路線を調べる時代ではなく、市販のブック型地図と列車時刻表を調べて段取りしたのですが、都内から鉄道を乗り継いで、最後はバスでもっとも近い停留所を、会社から教えてもらって移動したに違いありません。

最後はどの停留所に降りたのか、まったくわからないのですが、(ここまで書いて一つ思い出しました。私は毎年「1年手帳」をつけていて、おそらく、この日の訪問先も手帳に残っているかも知れません。手帳を保存しているダンボール箱を探しに行きましたが、そう簡単には出てこなかったので、何かの時に思い出し、手帳を探して確かめてみます)

問題は、その停留所から会社までです。おそらく会社に電話をした時は「交通手段はタクシーしかありません。料金は××××円ぐらいです」とか、教えてもらっていたに違いありません。

しかし、もう私は会社の旅費でタクシーを使える立場ではありません。タクシーを使っても何も問題はないのですが、結局それば自腹であり、自営業者としての支出です。自営業者初日から、そう簡単に、あれこれ使っていては、自分への示しがつきません。

歩けば済む話ですし、時間の余裕はありそうです。当時はキチンとネクタイをして、背広は手にもっていたと思いますが、ビジネスカバンを下げ歩き始めました。

最初の20分、30分はなんのことはなかったと思いますが、それから先は結構、こたえる初日でした。なにせ8月1日、昼下がり、カンカン照り、場所は成田空港方面に向かう田園地帯の一本道、まっすぐな道が地平線の果てまで延びている感じの、人一人通らない道です。

私は思いました。まさに、いま自分は自分の道を歩み始めた。どこまで続くか知れない果てしない道を、一歩一歩、自分自身が歩まなければ先には辿り着かない。そういう人生を私は選んで、今日、歩み始めた。この道は、まさに自分のこれからの人生の道しるべとなる道に違いない。

さすがにカンカン照りの道を40分、50分と歩き続けると、額には汗がにじんできたが、幸いカラッとした暑さなので、身体全体が汗まみれというほどではない。

こうして、私の新しい人生の初日は無事終わりました。「訪ね歩き」の旅路を象徴するような、忘れられない一日です。